2010年11月9日火曜日

ほねつぎ魂~銀河鉄道999外伝(長編)

車掌:「え~次の停車駅は~オステオ、停車時間はオステオ時間で3日間です」

鉄朗:「地球時間の3日じゃなくて?普通はその星の1日が停車時間じゃないの?」

車掌:「この星で999号のメンテナンスも行うんですよ、ハイ」

メーテル:「ここでちょうどアンドロメダとの折り返し点よ、鉄朗も長旅の疲れをいやさなくっちゃね」

鉄朗:「そういや地球を出て早6ヶ月、ずっとこの堅いシートで寝てるんだもんな、腰が痛いのも無理ないよ」

メーテル:「オステオは治療家魂の故郷、整骨院と柔道整復師養成学校の聖地として知られているわ。いつもは列車内の医務室のコンピュータに治療してもらっているけど、生身の人間なら同じ生身の人間から治療を受けたいわよね」

鉄朗:「そっか~整骨院か、楽しみだなあ。昔、父さんから聞いたことがあるよ、ある星で凄い先生にケガを治してもらったことがあって、その先生みたいになりたかった、ってね。でもさ、治療代って高いんじゃないの?」

メーテル:「999号のパスさえあれば、窓口の負担金は無料よ。あとは銀河鉄道が払ってくれる、パスが保険証なの」

鉄朗:「そりゃ便利だ。ところでなぜ他の星では整骨院は廃れていったの?生身の人間がたくさんいる星にはあってもおかしくないのに?」

メーテル:「この記事を読んで、そしてオステオに着けば分かるわ、オステオに着けばね」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101027-OYT1T00602.htm



オステオ中央駅からホテルへと歩く鉄朗とメーテル。

鉄朗:「ひゃー、すごいなあ、大通りの両サイド全て整骨院だ」

メーテル:「そのほとんどが年中無休、24時間営業よ、早速どこかで治療してもらう?」

鉄朗:「善は急げってね。へ~、オステオ中央整骨院か、立派な施術所だ、ここに決めた」

メーテル:「私はちょっと寄るところがあるから、治療が終わったら先にホテルに行ってて」

オステオ中央整骨院内にて

受付嬢:「今日はどうなさいました?」(声:野村道子、初代しずかちゃん、2代目ワカメちゃんの声優)

鉄朗:「ずっと列車のシートで寝てるから腰が痛いんだ」

受付嬢:「ではまずこちらに座って、コスモマイクロ波をあててください、あとで先生に診てもらいますから」

鉄朗:「え、君が先生じゃないの?先に先生に診てもらって治療の方針とか決めるんじゃないの?」

受付嬢:「私はオステオ柔道整復養成所の1年生です、今は電気をあてるのが仕事、先生は今他の患者さんを治療中で・・・」

鉄朗:「ふ~ん、そんなものか、まあカワイ子ちゃんがそう言うなら間違いないでしょ」


一方、別の整骨院へ入るメーテル

間接照明の中、後ろ髪が襟を覆うくらいのロン毛、ケーシー白衣、肩のボタン3つのうち2つを開け、アクアチタンが配合された紐のようなネックレスを覗かせた男が傅く。

男:「ご指名ありがとうございます、メーテル様」(声:神谷明、めぞん一刻、三鷹瞬ほか)

メーテル:「いつものように頼むわね」


一方、鉄朗のいるオステオ中央整骨院、コスモマイクロ波照射開始後、数分が経ち・・・

鉄朗:「あれ、なんか腰熱いよ。アチ・アチチチチチ、あつい~」「グキッ!」

飛び上がって着地した時に右足首をひねる

鉄朗:「イテッ!足ひねった、ところでなんだよこのコスモマイクロ波ってのは?」

受付嬢:「身体に何か金属が入ってると熱くなるとは聞いてるんですけど・・・」

鉄朗:「機械伯爵を倒したときに刺さってそのまま残ってる金属片があるけど、君はそんなこと聞いてくれなかったじゃないか、どうしてくれるんだ、ヤケドだよ、それに足もひねったし」

受付嬢:「ではアイシングしましょう、あら、冷蔵庫の氷が足りない」

鉄朗:「外傷を扱うのに、製氷機もないの?そんなの僕でも必要ってわかるよ、もういい、先生を呼んでよ」

受付嬢:「いま先生は常連の患者様の肩こりの(あっ、と口に手をあてる受付嬢)治療に全力で・・・先生がくるまでコスモ干渉波をあてておきましょうか・・・」

鉄朗:「もういいよ!」


ホテルのベッドで大の字になる鉄朗

鉄朗:「あ~ヒドイ目にあった、もうあんなのはこりごりだ・・・あれ?なんか頭キンキンする、さっきの足の捻挫の痛みじゃないよな」

やけにすっきりした表情で部屋に入ってくるメーテル。

メーテル:「なんだか浮かない顔してるけど、腰は治してもらえたの?」

事情を説明する鉄朗・・・

メーテル「そんなことがあったのね・・・それにしてもおかしいわね、この部屋、異常な電磁波よ」

枕もとの説明書を読む鉄朗

鉄朗:「コスモXルスXロンベッド?なんだいこりゃ?」

メーテル:「生身の人間には危険な代物よ、製造元がどこか書いてない?」

鉄朗:「メガロ医療機、アンドロメダ製って書いてあるけど」

メーテル:「この星の治療家たちの判断力も下がったということね、それとも機械化人の観光客が増えたということかしら・・・鉄朗、ホテルはあきらめて、列車で寝ましょう」


999号に戻った鉄朗とメーテル


車掌:「どうなさったんですか?あれだけ楽しみにしておられたのに、それに脚まで引きずって」

鉄朗:「どうもこうもないよ、ヒドイ目にあった、医務室の装置に治してもらわないと」

車掌:「ところが医務室の装置もメンテナンス中でして、2日後の出発直前まで動かないのです・・・ハイ」

メーテル:「やはりあの人に診てもらうしかないのね・・・あの人に」


ナレーター:「メーテルが一人立ち寄った整骨院はどんな施術所だったのか、それからメーテルのいう、あの人、とはいったい誰なのか、鉄朗にはわからない、ただこのまま出発までRICE処置するしかないという事実が鉄朗の気分を重くしていた。」


ここでCM2分間・・・

翌朝、いつものように列車のシートで目覚める鉄朗、メーテルはすでに外出の用意を整えている。

メーテル:「さ、起きて、足だけは治しておいてもらわないとね」

車掌:「あの先生のところですね・・・きっと良くなりますよ、ハイ」

鉄朗:「昨日みたいな整骨院ならこりごりだよ」


無人エアカーのタクシーはオステオ中央駅から30分以上離れた郊外へ向かう、

鉄朗:「自然が豊かないい星なんだね、これから行く整骨院はメーテルの知っているところかい?」

メーテル:「ええ、有名も有名、この先生を知らない柔道整復師はいないわ、このオステオでは1番の治療家よ」

鉄朗:「ということは宇宙で1番の柔道整復師ってこと?」

メーテル:「それはどうかしら、でもあるとき宇宙で一番だったことは確かね」

タクシーは一軒の民家の前で止まる。

鉄朗:「タンシオ整骨院?変わった名前だな、横にあるのは・・・柔道場?」

メーテル:「先に降りていってらっしゃい、私もすぐいくから」


薄暗いタンシオ整骨院内に入る鉄朗、奥から声が聞こえてくる・・・

タンシオ:「誰じゃ」(声:大滝秀治)

鉄朗:「星野鉄朗といいます、昨日足をくじいちゃって・・・それから腰も半年にわたる列車生活で・・・」

タンシオ:「999の客か・・・(しばし無言)・・・どういうふうに足をひねった?痛みはどんな感じだ?今こっちも骨折の整復をやっておるが、やりながらでも話は聞いてるから・・・今までに足をひねったことは?最後に捻挫したのはいつじゃ?」

姿が見えないタンシオから矢継ぎ早に問診を受ける鉄朗。


ようやく姿を現したタンシオにいろいろ足を触られ、そして足をつかまれながら、

タンシオ:「こうやって足を前に引っ張られてどうじゃ?横に曲げられるとどう感じる?最初のが前方引出しテストといって、次のやつがテイラー(距骨)ティルトというやつで・・・」

説明にはちんぷんかんぷんの鉄朗・・・



タンシオ:「ほれ、立ってみ」


テーピングを巻かれて立ち上がってみると・・・



鉄朗:「先生、歩けそうです!」


タンシオ:「まだ無理はいかん、列車に戻っても、さっきやったビー玉を足の指で拾って缶に戻す訓練は毎日続けなさい、ほれ、これ(ビー玉が入った缶)やるよ。それから腰は6ヶ月以上の慢性疾患だ、本来なら実費をいただくところだが、うちの息子も999で旅に出たんじゃ、あいつも同じ痛みを感じていたんだと思うとお金なんてもらえんて・・・」
 
鉄朗:「先生、ありがとうございます。メーテル、これで歩けそうだよ」


タンシオ:「メーテル?」

整骨院の入り口の外で待つメーテルのシルエットに気づいたタンシオ

メーテル:「お久しぶりです、タンシオ先生」

タンシオ:「帰ってくれ、ここはあんたの来るところじゃない・・・息子が、この星を出ていく、といいだしたのはアンタが現れてからじゃ・・・」

メーテル:「私も二度とここへは来ないつもりでした、でもこれを届けないとと思い・・・」

タンシオ:「ホルシオは元気でやってるのか・・・他の星で柔道整復の大学の教員になったと聞いてから、もう十何年もなるのに音沙汰なしじゃ」



メーテルの持ってきた記事に目を通して空を見上げるタンシオ


タンシオ:「鉄朗君といったな、ワシの息子、ホルシオも君のように真っすぐだった、ワシもホルシオはじめ2人の子どもに惑星大アンドロメダのメガロコスモ大学に行かせたいと思い、肩こりを捻挫や打撲に・・・そんなことをするワシの跡は継げないと、ここにいるメーテルさんと999号に乗って行ってしまった・・・」


鉄朗:「でも、僕の腰痛は慢性だから実費だと・・・それにこんなに素晴らしい星なのに、どうして?」


タンシオ:「人材育成そして輩出こそがこの星の目指す道と、柔道整復に特化して、星をあげて取り組んだんじゃ、最初はみな理想に燃えていたが、ラクに儲かる仕事だ、と評判が立って、気がつくと、この星のほとんどの人間が柔道整復師になってしもうた。たしかにズルをして大儲けをした人間は過去にいたが、そんなに儲かる仕事じゃない、ズルしてるという罪悪感と引き換えにお金が入っても・・・」

鉄朗:「でも整骨院と柔道整復師養成学校の聖地として知られている星でしょ?地球、それも日本から受け継いだ、伝統的な技術を後世に伝えていくということにやりがいは感じないの?」

タンシオ:「人材育成はしたものの、新聞には、養成所、と書かれる程度で、この星では通用しても、この星の外でやれるだけの教育は受けておらんからのう。だから、ここに来た人間はここにしがみつこうとする・・・今はもう患者といえばあんたのような銀河鉄道の乗客をはじめ旅行者がほとんどじゃよ。ワシのところは隣で柔道教室を開いているから、柔道を習いにきた子供たちが怪我した分仕事があるわけじゃが・・・まあ、そんなところに未練はないじゃろて・・・」



翌朝、出発の準備が整った999号、鉄朗とメーテルはいつもの座席に。

メーテル:「鉄朗、タンシオ先生よ」

窓を開ける鉄朗、電話帳のような分厚い冊子を持ったタンシオと窓越しに向かい合う。

タンシオ:「鉄朗君、息子にもし会うことがあったなら、このファイルを渡してほしい、柔道整復師は学校で習うのとは別に、それぞれ門外不出の治療法というのがあって、直接の弟子にしか受け継がれないのじゃが、ワシの息子はその一部しか受け継いでいないうちに旅立ってしもうた、ワシももう長くない、息子に会って、これを渡してくれ」

鉄朗:「わかったよ、先生、必ずホルシオさんに会って直接渡すから」
 
鉄朗とタンシオに気づかれないように顔をそむけて涙をぬぐうメーテル。
 

発車のベル、タンシオは機関車C62が吐き出す蒸気にも動じずホームに立って見送っている。999号はゆっくりとホームを離れ、そして、秋晴れの空を横切るひとすじの光の矢となって惑星オステオから旅立った。
 
鉄朗:「メーテル、ホルシオさんってどんな人だったんだい?」

メーテル:「あなたによく似ていた、としか今は言えないわ」

鉄朗:「会えるよね、いつか、ホルシオさんと」

メーテル:「そのうちわかるわ、そのうち・・・」

ナレーター:「地球のある新聞によると、整復師の、養成所、が近年増え、05年には約5万人だった整復師の資格保持者が、09年末には約6万7000人に増加している、と書かれている。柔道整復師養成教育の完全4年制大学化を目指していた、タンシオの息子、ホルシオが、養成所、と書かれた記事の話を聞いたなら、どう反応しただろう、と鉄朗は思う。ホルシオについて尋ねたとき、メーテルの目が涙で赤く滲んでいたことに鉄朗は気がついていたが、その涙がどんな意味をもつのか、鉄朗にはわからなかった、いや判ろうとしないほうがいいのだと自分に言い聞かせて、いつもの座席で眠ることにした。タンシオから受け取ったファイルが、時を経て、また鉄朗のもとにやってくるということを、鉄朗はまだ知らない」


2 件のコメント:

  1. しっかりとエンディングまで・・・。
    す、すばらしい(涙目)
    一瞬こんな1話があったのかと思いましたw
    アニメ化して欲しいです!!

    そういえば初恋のアニメキャラがメーテルでしたw
    小学校の時はいつあんなお姉さんが迎えに来るのかと夢みてました(恥)

    本当にお金が欲しくてウソをついて保健診療をしているんですかね?
    ふと思ったのは保健診療がないとお客(患者)さんが来てくれないから、保健診療をする。ってことなんですがどうですかね??
    鍼灸だけじゃ食べていけないから、柔整の資格をなんて話をききますが・・・。

    MTIメンバーへ。そうならないよう今ここで一緒に頑張りましょう!!

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  2. 三木君、コメントありがとう。

    >小学校の時はいつあんなお姉さんが迎えに来るのかと

    誰でも人生には最低1度は銀河鉄道に乗れるチャンスがくる。メーテルが霞んでしまうくらいの「経験」というチャンスが迎えにくる。

    その「とき」に気付くか、仮にその「とき」に気付いたとして、列車に乗れるかどうかは、普段からの準備次第だと顧問は思う。

    普段の準備・・・限りある時間を精一杯生きること、だと顧問は信じる。

    まだナレーション引きずってます(笑)。

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